2012年10月31日

【映画祭レポート】13日(土)アルテリオ映像館/日本映画学校卒業制作、東京フィルメックス、サウダーヂ!

さてさて、13日(土)アルテリオ映像館のレポートです。

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初回は、日本映画学校卒業制作作品『北風』『Voy!〜ある選手たちの戦い〜』を上映。

第一線で活躍する映画人を育成し、映画祭を全面的に支えてくれた日本映画学校は、
昨年4月の日本映画大学開学に伴い、来年3月に閉校します。今までの感謝と、今も
制作に励む最後の卒業生たちへのエールを込めて上映されたこの2本は、昨年度卒業・
第24期生の作品です。

上映後、『Voy!』のプロデューサー・森重智さん、日本映画学校校長・千葉茂樹さん
がゲストトークを行いました。本作は同校卒業制作として初めて副音声ガイドがつけ
られ、その制作過程などが語られました。

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『Voy!』はパラリンピック出場をめざすブラインドサッカー日本代表選手たちを追った
ドキュメンタリー。この題材を取り上げたきっかけ、ブラインドサッカーについて、
監督・プロデューサー・撮影・編集と4人で分担した制作過程、取材対象の生活に入り
込んで撮影する際の距離感のとり方などについて語られました。

印象的なタイトルの『Voy!』という言葉は、ブラインドサッカーでは頻繁に出てくる
用語だそうです。「守備のときに『Voy!』と声を出さなければいけないし、すれ違う
ときも言っていたり。意外と知られていないんだなと思って、タイトルとしては成功
だと思いました」(森重さん)。

本作は「映文連アワード2012」パーソナルコミュニケーション部門・部門賞を受賞。
映画祭準備期間中に飛び込んできた朗報でした。「何年にいっぺんぐらいのチーム
ワークのよさだった」(千葉校長)。一人ひとりが持つ能力をうまく役割分担し、
それが非常に功を奏したそうです。

本トークの司会を務め、長年にわたり映画祭の副音声ガイドを手がける滝沢春江・
当映画祭副代表は、「千葉先生から手伝ってみませんかというお話をいただいたとき
に一番嬉しく感じたのは、こんなに若い、これから映像制作に関わる方が『副音声を
作ってみよう』と思ってくださったこと」。映画の制作者自身が副音声を作るのは珍
しいそうです。サッカーの経験を持つ森重さんは、解説に専門用語を多く入れてしま
い、「サッカーを知らない二人がバシバシ、ここわからない、この用語わからない、
と言ってくれて、なるほど、と(笑)。そのように、ひとりでなくみんなの力を入れ
込んでやれたということが、この作品全体にいえると思います」。

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今後を聞かれ、森重さんは答えました。「単純にこの作品を広げたいというか…
ノーベル賞の山中さんもおっしゃっていましたが、賞を取ったのは、それはそれであ
りがたいんですけど、やはり広げられて、広がってナンボのものだと僕自身も思って
いるので。機会があれば、いろいろなところでガンガン流してもらって、いろんな人
に理解を深めていきたいと思っています」。
映画祭も、今後のますますのご活躍をお祈りしています!

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シネマウマからもエールを!


続いて『東京フィルメックス in しんゆり』。

3年前から始まったこの企画は、東京フィルメックスの全面的な協力を得て、前年の
東京フィルメックスで上映された作品を上映する特別な企画。
今年は前年グランプリを受賞した『オールド・ドッグ』を上映後、東京フィルメックス
プログラム・ディレクターの市山尚三氏による講演「映画祭におけるデジタル化の波」
が行なわれました。

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チベット人の監督によって、チベット語で撮られた作品は希少だそうです。ペマツェテン
監督は、元々チベット語で文学を書く作家として名をはせていた方で、映画を撮り始め
たのは後になってから。これまでも3本しか長編劇映画を撮っていないそうです。

チベット人の”魂”の象徴であるかのように、チベット犬が登場する本作。思想的、
政治的なにおいがする作品ではないものの、ほのぼのとした作品でもない。観る者の
心に何かを残して終わる本作に関して監督は特段の声明を発していないようですが、
「チベット人の心情を描きたい」と言っていたとか。深い深い意味が込められている
ように思います。

中国には映画の検閲があり、監督が市山氏に語ったことには、本作もシナリオ段階から
政府に提出、完成作品前の映像(ラッシュ)も政府が検閲したとのこと。政府の合格
サインが出ない映画は移動上映などで上映されることもあるようで、中国にはペマ監督
のように、まだまだ知られざる才能が存在する可能性があるとのこと。
東京フィルメックスが毎年発掘する、新たな才能に今後も注目です。

続いて、講演テーマ「映画祭におけるデジタル化の波」について。
世界の映画祭で今何が起きているのか。デジタル化の影響はどんなところに波及するのか。
この機会に当映画祭のお客様と一緒に考えてみたいとスタッフが市山氏に講演をお願い
していました。

様々な国際映画祭に関係されている市山氏ならではの具体的な事例と状況報告が数多く
語られました。

まず、東京フィルメックスでは、11月23日(金)より開催の第13回のコンペ作品と、
特別招待新作映画の20数本すべてがデジタル素材の作品だったそうです!昨年は全体の
40%がフィルムであったのに比べて、様変わりした今年の現状に市山氏も驚かれたとの
こと。今年のイタリア・ベネチア国際映画祭コンペ作品でも同様の事態が発生していた
そうで、18作品中フィルム上映は2本。うち1本は北野武監督の『アウトレイジ ビヨン
ド』。それ以外はデジタルで制作されていたそうです。

では、「デジタル素材」「デジタル化」=悪なのか? 
決してそういうわけでもない、と市山氏。

35mmで撮るにはプロのテクニックや制作費がデジタルよりも多く必要ですが、デジタル
は、いわば誰でも撮れる、便利なものでもあります。特に、デジタル化はアジアの映画
に大きな影響を与えたそうです。「デジタル登場の2000年以前と2000年以降、アジアの
映画は変わった」(市山氏)。

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かつて中国では、北京の映画学院を出て映画を撮影する、という道のりしか無かったの
ですが、そのプロセスを経ることなくダイレクトにデジタルで撮る、という地点から
スタートする監督が出現したのが2000年以降。「その中で傑作を残した代表的な監督の
一人が、『鉄西区』や『無言歌』のワン・ビン監督である」と市山氏。
(ちなみにワン・ビン監督の最新作『三姉妹(原題)』は、今年のフィルメックスで
上映されます!)

最後に、上映する側に「デジタル化」はどのような影響を及ぼすのか?
ここ数年、世界的に急速なスピードで進んでいるのが映画館のデジタル化。
日本の映画館の多くも、2013年中にデジタル化を完了する予定といわれています。
このデジタル化のキーとなるのが現在、ほとんどの一般のシネコンが採用している
DCP(Digital Cinema Package)というアメリカの規格。これは、世界どこでも同じ条件で
見られるという規格で、安定的な上映が可能ではある一方で、設備投資に費用がかなり
かかる点や35mmの映写機を撤去しなければならない、というDCP導入時の条件があるそう
です。

そして現在、多くのメジャー映画館がDCP”のみ”の上映にシフトしている、というお話
から、大きな転換期を迎えた映画上映の現在について市山氏は語ってくださいました。

「35mm映写機がないのに35mmの映画を作る必要があるのか、初めからデジタル素材で撮
ればいいのでは、という制作サイドにおける変化も予想され、DCPの設備が無い映画館や
映画祭が上映したい作品をや新作をかけたくても、DCPをかける上映環境がないから諦め
る、という状況が早くも来年にも起き始める」。

幸い、川崎市アートセンターは今のところ様々な上映形態に柔軟に対応できる環境が整っ
ていますが、それができない上映館は上映作品を限定せざるを得ず、中には廃業となる
映画館も数多く出ると映画業界ではまことしやかに囁かれているのです。

「商業原則に基づいて映画上映が行われている現状に対して、国がフィルムを守る、と
いう強硬策でも採らない限り、現在のデジタル化の流れは止められない。しかしながら、
こういったデジタル化の波の中でどのようにデジタル化に対応していくべきか、現在、
全国の上映団体を中心とした各地の人々が知恵を絞っている、その現状も観客の皆さん
には知ってほしい」というお言葉で講演は締めくくられました。

少し長くなってしまいましたが、映画上映を取り巻く現状をご来場いただいた皆さんに
もぜひ知っていただきたく今回の講演を行わせていただきました。ご来場いただいた皆
さん、市山さん、ありがとうございました。




『セイジ 陸の魚』に続いて、本日の最終上映は『サウダーヂ』。満員御礼でした。

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上映後は、自主映画制作集団”空族”のメンバーでもある脚本家・相澤虎之助さんと、
『ヘブンズ・ストーリー』(瀬々敬久監督)など様々な映画への出演で知られる俳優・
川瀬陽太さんをお迎えしてのゲストトークが行われました。

最初の話題は、舞台となった山梨県甲府市へのこだわりと、空族の前作『国道20号線』
から『サウダーヂ』へ続く制作秘話。

富田監督の故郷でもあり、『国道20号線』の舞台にもなった甲府市。『国道20号線』
撮影中、いま、この街はどうなっているのか撮りたいという思いと、その後行われた
1年間におよぶ甲府市に住む様々な人への取材から、『サウダーヂ』の構想が少しずつ
出来あがっていったそうです。

驚いたのは、その1年間の取材結果が『Furusato 2009』というドキュメンタリー映画
になっているということ!『国道20号線』と『サウダーヂ』をつなぐこのドキュメン
タリー、上映される機会は少ないようですが、いつか絶対に見てみたいですね!

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続いての話題は『サウダーヂ』の出演者について。
これまで素人を出演させてきた空族としては初めて、いわゆるプロの俳優さんを迎えた
そうです。そのプロの俳優さんというのが、川瀬陽太さん。

川瀬さんがお話してくださったのは、出演依頼を受けた当時の心境。
過去に空族の映画をご覧になっていた川瀬さんは、嬉しい気持ちがある反面、その土地
で生きてきた人や、実際に土木作業の仕事を経験されてきた人が出せる”リアル”と
職業俳優である自分の発するものとに齟齬が生まれるのでは…と、若干躊躇されたそう
です。

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そんな川瀬さんに「スタッフが少ない現場で、初日から川瀬さんにレフ版を持たせて
しまいました。現場になじんでましたよね。レフ版を持ってくださる、そんな川瀬さん
に、現場側は嬉しかったです」というエピソードを披露した相澤さん。
川瀬さんからは、セリフを頭に入れて撮影に臨む川瀬さんを見てプロの俳優ではない
主演の二人から「すごいっすね」と言われた、なーんていうおもしろエピソードが返っ
てきました。

”非・俳優”と”俳優”の見事なコラボレーションは、互いの違いを認め合いながら
一緒に一つのものを作っていく、そんな現場から生まれたのかもしれません。

相澤さんからは「取材した現実をいったん脚本にし、それをまた実際の土木作業経験
者やブラジル人などの当人たちが演じるおもしろさがある。つらい、哀しいだけでない
様々なものが入り混じった街の雰囲気を感じ、吸収しながら撮影することができた」
というお話もありました。

劇中のエピソードはきわめて事実に近いそうで、出演しているブラジル人ラッパーは、
実際に撮影中からいつ母国に帰るかわからない状態だったとか。
帰国が決まる前に急いで撮影した直後、突然母国に帰ってしまったという衝撃的な話も
明かされました。

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最後に、空族の作品がなかなかDVDにならないことに関して観客席から質問が飛ぶと、
相澤さんから「35mmで劇場で大きいスクリーンでみてほしい」「上映される場所にも
こだわりがあり、今日のように皆が集まって話せる場所が好き」「隣にだれが座るか
わからない映画館ならではの雰囲気を味わってほしい」という発言が。
空族の皆さんが持つ映画への想いは、上映される最後の最後まで強いようです。

また、相澤さんは映画祭の今年のテーマ「映画よ どこへ―」につながるお話も。
「『サウダーヂ』はデジタルで撮影したものを35mmに焼いて上映している。それは自分
たちがフィルムで育ってきた、フィルムが好きだから。貴重な財産であるフィルムが
捨て去られたり、ないがしろにされる風潮には腹が立つこともある。心にとどめてほ
しいのは、デジタル化の風潮はあるけれども、フィルムを残す=選択肢が増える、と
いうことなので、映画を見る側もそういったことを意識してほしいと考えています」。

映画への強い想いとこだわりを持った自主映画制作集団・空族。
しんゆり映画祭はこれからも彼らから目を離すまい、そんな思いを強くした一夜でした!

締めはやっぱり……

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キターー!シネマウマ君!

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満員御礼!空族万歳!

以上、13日(土)アルテリオ映像館からのレポートでした。
さあ、残るは最終日!
posted by シネマウマ at 21:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画祭レポート
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